インクナブラ

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家族のイデア・1 

 世間では地獄のハッピーホリデイだろうがそんなことは気にせず後ろ向きに更新。いや、今日は天皇誕生日だけれども。
 ちなみにA級戦犯の処刑が行われた日でもあったりする。
 そして作品紹介。

タイトル 家族のイデア
ジャンル (途中まで)サスペンス風・妹・(後半から)荒唐無稽
あらすじ 受験に失敗した主人公は受験に成功したくせにひきこもりの妹に困る。若干色めいた描写あり。

 二度目にしてやる気の希薄さが漂う紹介文だけど、エディプスよりは若干読み手を意識した話です。前作を読んでくれた有難い方は是非是非に。
 そんでは以下。

0.
 


 都内の住宅らしく家の間取りは合理的で、玄関を空けるとすぐに廊下と階段に突き当たる。まっすぐ進めばそこは一階。廊下の奥には妹の部屋と親父の部屋がある。僕と兄貴の部屋は階段を上って二階だ。だがそれだけじゃない。我が家には五人目の家族がいる。二階にはまだ母さんの部屋がある。
 僕の知る限り、その部屋の扉は少なくとも三年以上開けられていない。
 そこは母さんの部屋だ。もちろん開かずの間じゃない。むかし密室殺人があったとかいう奇天烈ないわくもない。いたって普通の部屋だ。鍵はかかっているが、開けようと思えばいつだって開けることが出来るだろう。でも誰もそれをしようとはしない。親父も兄貴も。妹も。もちろん僕も。先生も。扉の前に食事を載せた盆を置くことはあっても、部屋の中に入る家族は一人もいない。
 なぜか?

 それは母さんが魔女だからだ。その部屋が魔女の部屋だからだ。

 信じる信じないはともかくとして、そういうことになっている。




1.




 先生が家庭教師として初めて家にやって来てからもう一年になる。

 どこからが唐突でどこまでが唐突ではないのか、人と人との出会いに関しては誰しもが一家言持っていることだろう。僕と先生との出会いはどうだっただろうか? 唐突だったような気もするしそうでもなかったようにも思える。

 流れは明確だ。僕には不登校の妹がいた。親父はその娘のことをいたく心配していた。その心配が先生を我が家に呼び込んだ。そして僕は――正しくは妹は、親父の手によって先生と出会うことになった。言葉にすればこれだけのことだが、これは自然な出会いといえるだろうか? どうだろう。不自然ではないと思う。

 ところでこの場合の親父の『心配』とは外聞に向けたものではない。それが全く無かったというほど僕は親父のシンパではないが、親父はきっと純粋に妹の将来を心配していたはずだ。でなければ別に家庭教師を用意する必要は無かったのだから。何しろ週五で家庭教師を雇うというのはなかなかに金がかかる。不粋を承知で愛情を金額に換算するならば、それは結構なものだった。たぶん。

 それにしても『中高生にモノを教えることに関してはあたしは筋金入りのプロフェッショナル!』と言い放った先生を目の当たりにしたときはまたぞろ変な女を連れてきやがったと思ったものだが、結果を出されては文句もいえない。とはいえ未だに先生を疎んじている兄貴とは違い、僕はとっくに先生を『身内』として受け入れていたので、もとより妹の受験の結果がどうであろうと難癖をつけるつもりはなかった。
 ともかくこうして僕は妹の家庭教師である『先生』に出会った。唐突か唐突でないかはともかく、運命的であったことは間違いない。大体にして物事をあとから振り返ってみるとそれは運命的に思えるものだ。

 それから一年は一年なりのスピードで過ぎて――

 この春、結局妹は高校受験に成功した。その裏で僕は大学受験に失敗した。妹になくて僕にあったものは出席日数であり、妹にあって僕に無かったものが先生の指導。高校受験と大学受験を同列に置くのもどうかとは思うが、ともかくこれが結果だ。僕にいちばん足りなかったのが勝負強さと偏差値であるとはいうまでもないと思うので、あまり言及はしない。


 妹の受験が成功し僕の受験が失敗した祝賀兼残念会において、親父をあっさり潰したあと僕に眼をつけた先生は大いにくだを巻いたものだった。

「まーあたしの教えが良かったのはもちろんだけど、コトちゃんに関しては生徒の良さも大きかったわよ。ホント世の中広くってね、いくら教えてもマイナスの概念を飲み込めない子とかもいるのよ。『品詞ってナニ?』とか。それは極端な例にしてもね――塾とか予備校ってさあ、生徒の方にもある程度『学ぼう』って意欲がそなわってるもんじゃないのよさ。で、外にも出ないでお家に家庭教師呼んで済ませようっていう家庭の子供の中には、普通にそんな意欲が全然ない子もいる。もちろん逆の例だってないとは言えないけど――これがかなーり大きいんだな。塾だったらそういう子は自然に淘汰されるけど、マンツーマンで授業するこの仕事でそういうこと出来ないじゃない。生活もかかってるしさ。だっつーのにどう考えてもその子供の出来が悪いせいであってあたしは悪くないケースでもデリヘルよろしく『気に入んない。チェンジ』とか言われちゃうわけよ! でもともかく合格してよかったよかった、乾杯! え? きみ落ちたんだっけ? 見栄はってあたしに教わんないからだよあはははは! うおぅえげろげろげろー」

 稼業の不満についてはまだまだありそうだったが、ともかくスコッチ片手に酒気帯び言葉を吐きまくろうといきなりゲロをぶちまけようと、先生が優秀な家庭教師であるという事実は揺るがない。

 到達目標が定められたシークエンス、つまり受験において、僕は望ましい結果を出さなかったプロセスにはゲロぶんの価値もないと思っている。結果が全てではないが、一番大事なのはやっぱり結果だ。その点で確かに先生の言う事には一理があった。本当に合格したかったのなら、僕は意地なんて張らずに先生に教えを請うべきだったのだ。

「そんなことないでしょ」だが先生はそう思わないようだった。「そりゃそこで『受験すること』自体止めるんだったらただの骨折り損だけどね。きみには来年があるじゃない。お父さんも浪人していいっていってるんでしょ。ならプロセスはまだ続いてんのよ。これからも続くのよ。意地は大切よ。人間の生き方を決めんのは結果だけど、人間の生き様を決めるのはそういう意地なのよ。きっとそうなんだってあたし思うなーえろうぇおげー」

 そうして先生はまた吐いた。そしていびきもかかずに寝入ってしまった。

 ゲロを始末しゲロくさい先生をソファに寝かせながら考えた。浪人したことはあまりショックではない。兄貴や妹への劣等感も、拍子抜けするほど少ない。それはまだ「落ちた」ということに対して現実感が持てないせいかもしれないと思ったが、実際のところはわからない。親父に申しわけないという気持ちはあったが、それを口にしたところで「だったら来年は絶対に受かれ」というようなことしか言われないのはわかっていたから、感謝は結果で示すべきだろうと思った。先生が言うように僕がこなすべき僕のプロセスは幸運にもまだ続くらしいのだから、それはまったく無理な事でもなんでもない。

 放置されたつまみや空っぽの酒瓶を片付けて、僕はリビングの惨状を確認する。討ち死には二人、親父と先生。これは放っておいても大丈夫だろう。兄貴は騒ぐ気分ではないと言って早々に部屋に閉じこもっている。その場に残っているのは僕のほかには――

 妹だけだ。


   ◆


「おい、起きろ、みこと」

 床にのびている親父を跨いで、カウチにもたれかかって舟をこいでいる妹の肩を揺する。ちらつく蛍光灯の下で、口を半開きにしている妹の顔の白さが際立っていた。色黒がいいとは思わないが、妹の色白は七難を隠すというよりも七難の表れなので喜べたものではない。何しろ今日の合格発表さえ親父に見に行かせたくらいだ。そういえば妹が遠出したのを最後に見たのはいつだっただろうか? コンビニへの買物や散歩なんかにはけっこう出かけているが、本格的な遠出となると――ひょっとしたら先月の受験日以来ないままかもしれない。

 それも高校が始まれば改善されるのだろうか? どうだろう。望みは薄いように思える。それどころか、妹の人間嫌いは最近ますます磨きがかかっているような気さえする。今の家に来てからはそうでもないとはいえ、僕の体には未だに貧乏性が染み付いている。できればせっかく受かった高校には行ってほしかったが――

 それは妹が決めることなのだろう、と思った。僕が無理強いすることではない。

「おーい、起きろって」

 背中に流れる黒髪を縫って首筋を掴むと、「ぅうん」と妹は悩ましげに聴こえなくもない声で唸った。

「春先にこんなとこで寝たら風邪引くぞ、おまえ弱いんだから。部屋行って寝ろ」

 妹の寝ぼけまなこが薄っすら開かれた。近視のせいか涙の含有量が多い瞳は、いつも潤んでいるように見える。

「……おふろぉ……」
 たぶん「お風呂に入りたい」と言っているのだろうと当たりをつけた。
「沸いてるけど明日にしろ。風呂で寝たら普通に死ねるぞ」
「……お兄さんが、いれてくださぁ……い」
「おまえ、どんだけ飲んでんの?」
「えっとう……少しぃ」

 顔を近づけて酒気を確かめると、『少し』どころではない匂いが鼻をついた。新陳代謝が元気な年ごろだけあって体臭の発散も活発なのだろう。

 放っておいたら朝方寒さに震えて目を覚ますまで動きそうにない妹にため息をついて、その腰に手を回した。柔道でカメの体勢になっている相手をひっくり返す要領で引っこ抜くように小さな体をカウチから引き離すと、明かりに目を焼かれた妹は盛大に不平を漏らした。

「ぅあー。まぶしぃー」
「知るか。ほら、おぶされ。部屋までなら運んでやる」

 そこで妹はぴたりと動きを止めて、

「抱っこがいい」
「ベタな寝ぼけかたしてんじゃねえよ」

 そう言いながらも背中と膝に入れて希望通りに体を持ち上げる。我が家における不健康の代名詞的存在だけあって、妹の体の主成分は骨と皮だ。軽々とはいかないが、僕にも運ぶ事くらいはできた。
 が、妹は持ち上げられるや否や顔をしかめて、

「お兄さん、なんか臭いません?」
「そりゃ今さっきゲロ掃除したばっかりだから」

 とたんに暴れだす体をしっかりと拘束して、僕は居間を出て一階の奥にある妹の部屋に向かう。明かりの消えた廊下はさすがに寒かったが、妹の部屋に入ればすぐにそうでもなくなった。両手が塞がっていて明かりを点けられない上、先生に勉強を教わる時もあまり使わない部屋なので間取りは不案内だったが、暗闇の中でもベッドのある場所くらいは見分けられた。
 目算つけた場所に妹を放り投げた。背中でも打ったのか、妹がくぐもった悲鳴を漏らす。

「――今のはちょっとひどいとおもい、ます」
「悪かった。重くてさ」
「――ひどい」
「冗談だよ」

 適当に答えて、僕は妹から見えないのをいいことに顔をしかめる。対象は不満げにもぞもぞと体を布団にもぐりこませる妹ではなく、身を置いている場所そのものだ。

 何度来ても、あまり居心地のいい部屋とは思えなかった。空間に空気が淀んでいる。明らかにそれとわかる妹の体臭が濃い。むせ返りそうなくらいだ。甘い匂いと評することもシスターコンプレックスならできたかもしれないが、僕には二年前から妹になった女の子に対して、親父のように気安く接することはできそうにない。かといって兄貴のように距離を置く度胸もない。その結果、いかにもな『いい兄いい妹』という今のような構図が出来上がったのだと思う。

 兄貴や親父や先生に言わせると僕の態度が甘いおかげで妹に懐かれているということだが、実感はない。妹に向ける態度としては冷たいとさえ自覚している。妹は確かに僕を「兄」と呼んでも兄貴を「兄」とは呼ばないが、それにしたってきっかけがないだけだ。そう大した差でもないだろう。

 それにしても、と暗いままの部屋を眺めて嘆息した。

 僕は経験上、『私室』というのは人それぞれでその役どころが異なるものだと理解している。完全に自分の世界として環境を閉鎖する人間もいれば、物置としてしか使わない人間もいる。他人を招くための場所と割り切ってそれに適した形態に飾る人間もいる。

 妹の部屋は、典型的な『世界』だった。明かりを点けて隅々まで照らし合わせれば、きっとそこには巻島三言という人間そのものの影が浮かび上がるに違いない。混沌としていて物が溢れていて、なのに持ち主にとってはきちんとしたルールに支配された空間。僕は自分の部屋を片付けない人間というのは、要するに自分の心を他人に見せない人間なのではないかと思う。散らかりようを放置するのはそこに他人を招かないから。最初から踏み込ませるつもりが無いから、整理して飾っておく必要がない。自分だけにわかる配置でさえあればいい。そして日々自分だけの城を築き上げていく。必要なものを少しずつ足していき、要らないものを排していく。世界はだんだんと完成に近づいていく。やがて『外』は必要なくなって――

 ――というのはもちろん今考えついただけのエセ心理分析に過ぎない。たとえもっともらしく聞こえようと、実際はそんな単純に片付くものでもないだろう。ゴミ溜めみたいな部屋に平気で人をいれるやつだって世の中にはけっこういるものだ。

「お兄さん?」

 なんてことを考えていたら、とっくに寝たと思っていた妹が布団の中で体を反転させて、足下から僕を見上げていた。

「……立ったままでなにしてるの。もしかして、一緒に寝たいんですか……?」
「――いや、それはないだろ」居心地が悪いと思いながらも考えごとにふけっていた気恥ずかしさをごまかすように、口調はぞんざいになった。「年を考えろ、年を」
「あたしはべつにいいですけど」

 知らず、眉間にしわが寄った。冗談でもそういう台詞は気色悪い。

「やっぱり酔ってるよ、おまえ」
「酔ってません。リトマス試験紙舐めてもきっと青だし」
「それはそれでヤバイな。――いいからほら、寝ろ」

 布団を持ち上げてスペースを強調する妹を足で布団の中に押し戻して、僕は妹の部屋を出る。背中で扉を閉めると、元いた空間からは隔絶されたような錯覚に陥った。それも長いことではないし、初めてのことでもない。

 廊下を歩いて居間の入り口に戻る。床に這いつくばっているであろう親父の姿は見えないが、先生はまだソファで眠っていた。年ごろの女のくせに、無防備にもほどがある。かといって起こすのも面倒だから、結局放っておくことにした。寒くなれば勝手に起きるだろう。終電はとっくに終わっているが、そこまでは僕も世話を見きれない。

 次に階段の続く先を見上げると、そこに闇がある。僕は耳を済ませた。物音は何も聞こえない。兄貴はとっくに寝ただろう。その奥にいるはずの母さんは――わからない。寝ているんだろうか? 起きているんだろうか? そもそも、生きているんだろうか?

 母さんはほんとうに〝いる〟のか?

 母さんについて考えると、結局はその疑問に突き当たる。同じ家の中にいる。なのに顔を合わせたことがない。それは明らかに異常だ。普通じゃない。そんな生活は成り立つはずがない。だが事実、母さんはそうやって生きている。二階の一番奥にある部屋から出てこず、この家で生きている。定時で扉の前に置かれる食事を摂りながら。母さんは――

「お兄さん」

 思わず小さく悲鳴が漏れた。

「わ、びっくりした。どうしたんです?」

 不思議そうな声は妹のものだった。僕は安心すればいいのか怒ればいいの判断できないまま、さっき後にしたばかりの部屋の方へ視線を向ける。
 部屋と廊下の境界線上、暗がりに溶け込むようにして妹が立っていた。

「どうしたじゃないよ。驚かせんな。寝たんじゃなかったのか?」
「おやすみなさいを言ってなかったから。……それに、今日のお祝いも、ありがとうって、まだ言ってません」
「そんなこと?」

 問い返すと、妹が唇を尖らせたのがわかった。

「そんなことじゃないです。大事なことでしょう」
「そうか? ――じゃあ、おやすみ。それに改めて、合格おめでとう」どうせ高校も行かないんだろうけどな、とは口には出さずに置いた。言葉が足りないのも問題かもしれないが、言葉が過ぎるよりはいいと僕はいつも思っている。

「はい」妹が微笑んだ。練習でもしてるのかと訊きたくなるくらい絵になる笑顔だった。「ありがとうございます。――それじゃ、おやすみなさい」

 音もなく扉が閉じられた。妹はまた妹の世界に『閉じ』こもるのだろう。母さんほどではなくとも、母さんがそうしているのと同じように。

 この家の女はどこかおかしいと気付いたのはいつだったか。そんなことは考えるまでもなかった。初めてきたその日に気付いたに決まっている。二年前。妹はまだ普通に外出をしていたが、『母さん』は親父が僕たちに突然の再婚を告げたその日から――いや、それよりもずっと前から、二階にある部屋から出てきていない。

 僕はまた耳を澄ませる。家の中はとても静かだ。夜に溶け込んでそのまま消えてしまいそうなくらいだ。だが物音一つないわけではない。僕が発する音をのぞいても、居間の方からは深い寝息が聞こえている。先生のものだろう。親父のいびきもかすかに聞こえる。

 だが、母さんの音は何ひとつ聞こえない。

 ふと疑問に思った。母さんは、今日の祝賀兼残念会の趣旨を知っていたのだろうか? 知らなかったとすれば、あの大騒ぎをなんだと思って聴いていたのだろう。故事にあてるなら我が家は高天原で、家のあちこちを覆っている暗さは月読命の闇になる。天宇受売命はさしずめ先生。そして母さんは天照大神だ。だったら自分を岩戸の向こうから誘き出す宴会のように思えはしなかっただろうか? 隔絶された自分だけの世界で母さんはいつも何を思っているのか。天照は寂しがった。だが母さんは? 

 どちらにしても、母さんは結局今日も部屋から出てくることはなかった。「何がそんなに面白いのか」と僕が訊かれることもなかった。当然、僕がその問いに答える機会も訪れない。そもそも僕たちは――とりわけ僕は、母さんのことなんてさっきまで思い出しもしなかった。それだけが事実だ。

 階段を上って自分の部屋に戻る途中で、僕はもう少し母さんのことを考えてみる。そもそも天照大神を母さんになぞらえることに無理があるかもしれない。母さんは今日の宴会の主旨を知っているのだろうか? 僕は知っていると思う。自分の娘が不登校ながらも高校に合格したことも、血の繋がらない息子が大学受験に失敗したことも、あの開かない部屋の奥にいたって、ぜんぶ知っているに違いない。

 改めて考えるまでもなく、妹と母さんはよく似ている。母さんの見た目は写真でしか知らないからいまひとつ自信は持てないが、その性質はきっとよく似ているに違いない。二人は二人とも、自分の世界を作ろうとしている。この家に。それはまだ母さんの方がずっと頑固だが、きっと妹もやがては母さんのように固い世界を築き上げるだろう。

 母さんは部屋から出てこない。
 妹はもうあまり家から出ようとしない。

 好きにすればいいと思う。どうせ僕はこの家からは出て行くのだから。だから母さんに関しては僕はもう疑問は持たないことにしている。その回答は二年前に妹の口から聴いていたからだ。初めて会った日に。再婚を知らされた日に。

 きみのお母さんはどうして部屋に閉じこもったままなんだ、と僕は妹に訊いた。
 巻島ミコトはこう答えた。

「お母さんは、魔女だから」

 答えにはなっていない。
 だが我が家では、以来とにかくそういうことになっている。



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[ 2005/12/23 16:47 ] 家族のⅠ | TB(0) | CM(0)
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