インクナブラ

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家族のイデア・跋 

 勢い……!
 勢いで押し切って……っ!
 深いことは考えなくていいからっ……!

 で、最後。
 ここまで読んでくれた方、いたとしたら全開のありがとうを遅らせてください。

 以下エピローグ。





 

   ◆


 二種類のサイレンが頭の中にまで浸透して、頭蓋骨の中身をかき乱す。体が揺れている。僕は自分が眠っていたことに気付き、次にここがどこなのかという疑問に行き当たった。

「あ、起きた? おはよう、ユルギくん」

 右手から降ってきたのは聞き慣れた先生の声だった。とすると僕が今いるのは――

「おはよう、ございます……あれ、なんで僕、先生の車にいるんですか」

 一度ドライブに連れ出されて以来、カーステレオもついていなければ後部座席も取っ払われた、「中古で五万で買った」というその軽自動車の乗り心地を、僕は憎悪している。控え目にいってもロデオのように最悪のサスを有するその車で眠ってしまうなど、僕のか細い神経では考えられないことだった。

「ありゃ、忘れちゃったの? これから二人ででかけるところじゃない。勉強の息抜きにさ」
「そうでしたっけ――」

 そう言われてもまるでそんな記憶はない。眠る前はどこにいたのか思い出そうとしても、浮かぶのは脈絡がない上に馬鹿らしく、しかもリビドーまで反映されているという奇怪な悪夢に見た断片的な記憶ばかりだった。しかもその夢の中で狭いところに閉じこもったり切り付けられたりしたせいなのか、体の筋は妙に強張っている。

 ふと怖くなった。

「――僕、なんか変な寝言いってませんでした?」
「んんー?」交差点を左折しながら、先生が首を傾げる。「べつになんにも言ってなかったと思うよ。大人しいもんさ。どうしたの、怖い夢でも見た?」
「怖い夢って言うか、子供じみた夢っていうか……魔女の夢です」
「へーえ」先生の口調に笑いが混じる。「そりゃまたファンシーな」
「そう――なんかですね、先生が魔女の格好してて」

 それを聞いた先生が声を上げて笑う。僕は少し気分を害する。夢というのはだいたい荒唐無稽なものだ。それが正しく荒唐無稽だったからといって、笑われる理由はあるだろうか?
 あるに決まっている。どうやらまだ脳が完全に起きていないようだと諦めて、僕はまた目を閉じた。眠気が残っている。シート越しにひどい揺れは感じたが、まだ睡魔の方が強い。

「なんか、救急車とか消防車とか、ずいぶんうるさいですね」
「そうだねえ」先生が呑気に答えた。「ま、近ごろ物騒だし。……と、ちょ――っと飛ばすよ」

 そう言うや否や加速による加重が腹を圧迫する。僕は目を閉じたまま文句を言おうとするが、頬に痛みを感じて口を噤む。薄目をあけて痛みの正体を確かめれば、それは一本の細い木の枝だ。
 わらだ。

 ――なんで、こんなものがあるんだろう?
 疑問は尽きなかったが、やはり眠い。僕は目を閉じる。
 先生の声を聞く。

「ゆっくり眠っていいよ。まだ先は長いしさー」

 先。――そういえば目的地はどこだろう? 僕はそれもおぼえていない。思い返そうとするが、思い出せない。激しい揺れとすえたような匂いがただよう車の中で、僕はまどろんでいる。そのせいで記憶はあやふやで、まるで自分という存在が溶けて広がり散っているような感覚の中に身を置いている。サイレンの音が脳を刺激する。足の半分を夢の世界へと踏み出す。出かけるのなら――僕は思った。妹に土産を買っていかなくてはいけないだろう。兄貴にも。親父にも。何がいいだろうか?
 結局ありきたりなものを買うことになるのだろうが、そこに至るまでのカテイを楽しむのもまた重要なことだ。同じようなことを先生にも言われたようなおぼえがある。

 そういえば、家族で旅行に行ったのはいつが最後だっただろう?
 それもまたうまく思い出せない。

 だが今はとにかく、鍵のかかる部屋でゆっくり眠りたい気分だ。


《Home Sick Syndrome》――Fin.

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[ 2005/12/27 01:42 ] 家族のⅠ | TB(0) | CM(0)
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