インクナブラ

 主に創作小説を掲載します。

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弧人の群4 

 オレ夏はだいたいノーパン
 でもZIP上げ忘れコーバン
 拘置所で無実のLYME踏むぜSo Fun!(挨拶)

 暑さに頭がいかれた可能性を考慮していただけると幸い、ボタンです。サランラップとラップって何か関係あるのカナ!
 で、前回日記の宣言からギリギリアウトの感がある弧人四更新。正直、目標のシーンまで書け切れなんだ……ぐう。
 お目に留めてるありがたい人もきっとわずかにいるはずと思ってしこしこ書いていこうと思った。 ――――


 領地は王によって封じられる。その管理を預かる領主には、租税を納めるための領地を保全する義務が生じる。義務の中には治安の維持も当然含まれており、だから都市ではない領地の公的な警察力は領主の私兵である従士に依存する。保安員に割かれる人員も、基本的には領主のものだ。
 ルゥの立場は主君と契約を交わしてその配下となることを約束した従士とはまた異なるが、雇用主である貴族の言葉には逆らえないという点で大差はない。アルマ・ドラクロワに求められるまま河に浮かんでいた死体を回収した旨をつまびらかに話すと、
「ばーか」

 一言で切って捨てられた。

「ぐぅ」
「そういう場合はまず報告だ。連絡だ。そして相談だ。ほう、れん、そうだ。なんで今日みたいに流れの激しい日に水路に入ろうだなんて思える。しかもこの寒さで! 良くて凍傷、転びでもしたら一瞬で終わりだ。特に水難救助は一人であたってどうにかなることのほうが稀なんだぞ、ばかめ」
「二回も言わなくても……」
「ばか」
「……三回、あ、いやごめんなさい」
 あきれ返るアルマを前に、説明し終えたルゥにできたのは肩を落とすことだけだ。リュシアンとは別な意味で、ルゥはアルマに頭が上がらない。そもそも身分的にも精神的にも、自分が居丈高にかかれる相手などいないのだということに気づいて、ルゥは愕然とした。
「まあ、おまえは体だけはへんに丈夫だからな。無事だったんだからもういい。今は体を温めておけ。じきに走らせた連中が人を呼んでくる。そうしたらおまえにも一仕事してもらわなくちゃならない。まったく、厄介事はいつもこうだな。必ず重なるんだ……」
「一仕事って? また仲介?」
「まあそうなるだろうが、詳しいことはあとで話すよ」焚き火に高価な固形燃料を惜しげもなく放り込んで、アルマはすこし唇を噛んだ。「ほら、もっと近くに寄れ。そこじゃ寒いだろう」
「……うん、じゃなくて、はい」
 律儀に言い換えると、アルマが苦笑をこぼした。
「細かい事にこだわるな、おまえは。気にしなくていいって言っているのに」
「けじめですから」

 できるだけ事務的に応じて、ルゥは踊る炎に手をかざした。
 二人は河岸からは離れ、土手の上に熾した火を囲んでいる。ルゥは辞去したのだが、河に入って冷え切った体をそのままにすることをアルマが許さなかったのだ。
 事情を聞いたアルマの判断と指示は素早かった。まず連れてきた従士五人の内二人を近隣の村落へ走らせた。目的は人手の徴集だ。
 従士が領主直属の治安維持部隊とはいっても、基本的に村落には〝民会〟と呼ばれる自治会が組織されていて、法律や祭礼も含めた諸事の大方は彼らによって運営されている。〝森側の住人〟と思しきくだんの男が〝こちら側〟に関わっている可能性は薄いが、死体が出た以上は後々のことまで考慮にいれねばならない。実質最大の行動力である民会を欠いてはことが円滑に運ぶとはいいがたかった。
 一方残った三人には、棒を持たせて一帯の川底を攫わせていた。なぜかと聞くと「死体がひとつとは限らないだろ」と言われて、そこで初めてルゥも死体がまだあるという可能性に考えが及んだ。

「もっともたとえ他にも流れていたとしても、今日の水の勢いではとっくに地下へ流れ込んでるだろうけどな」

 予定が狂ったせいか、アルマはわずかに不機嫌そうに水路を見下ろす。アルマ・ドラクロワは常に自分がどう動き、どう結果を出すべきかについて考えをめぐらせている。そんな彼女にとり不測の事態は切っても切り離せない怨敵で、だったらいいかげん折り合いもついていいころだとルゥは思う。しかし現実的にはアルマが予期せぬ出来事に怒る頻度は一向に減る気配がなく、ルゥはそのたびにとばっちりを喰らっていた。
 潔癖なのかといえば、そうではない。
 それをわかっていて演じている風があるのが、アルマという少女だ。

「……でも、誰に殺されたんだろう。何のために?」
 
 ため息交じりに呟く事ではなかったかもしれないが、ずっと気になっていたことだ。ルゥは意見を求めるようにアルマを見つめた。

「気にならないことはないけど、面倒ごとにならなければなんでもいい。領主も今はいないことだしな」と仏頂面でアルマが言う。「経路から見て、死体は森側の上流から流れてきたはずだから、こっち側の人間にやられたってこともないだろう……と、思いたい」
「それなら捜査する必要もなくなるわけですしね」
「そういうことだ」

 統治者としての貴族が保護するのは、あくまで納税を義務付けられた領民だけである。原住民は交易の相手として充分に尊重しているが、彼らの問題に貴族が介入する必要はないし、望まれることもない。
 今回揚がった死体に関しても、部落に届ける必要性はあるだろう。しかしその先は森の中で管理されるべき事案だ。

「しかし現状の目撃証言だと、といっても実質ルゥひとりだけなんだが、他にはその異国風の娘、というのが死体の発見者ということになるんだな」
「そうなります」首を捻るアルマを眺めて、ルゥは頷いた。「わざわざ教えられなければ気づかなかった可能性もありましたから。もっとも、だからって他には誰も死体を見つけていなかった、ということにはならないでしょうけど」
「そうだな。厄介ごとを嫌って放置した可能性は充分にある。まあ、それはいってもせん無いことだ。べつに咎められるようなことでもないしな。ただ……関所からの距離的に考えづらいことではあるが、もしその娘が本当に異国の人間で、一両日中にこの領地に入り込んできたのなら、探さないわけにはいかない」

 そこでアルマは言葉を切って、とんとん、と人差し指で己の額を弾いた。懸念を消化しきれないときの彼女の癖である。その言い振りで、ルゥはなぜアルマが日中のこの時間帯に修道院の近所などに現れたのか、という疑問の一端に触れた気がした。

「つまり、国境付近でなにか問題が起きたと?」
「ばれたか」ことさら隠すつもりもなかったようで、アルマはすんなりと認めた。「うん。まあ、そういうことだな。といっても、まだ何かが起きたと決まったわけじゃないんだが」

 そう前置きして、アルマは語り始めた。
 近年改編され、新たに央国の領地に加わった二十五管区は、現在ドライベスレージという郡の一部として管理されている。王城が置かれている国都とは異なり、辺境一帯は通例大貴族である州侯とその門閥を頂点にした行政によって成立しているが、二二十五管区に関してはその常識の適用外だった。
 一部の都市国家と同じく、王によって半ば自治権を認められているのだった。現在の二十五管区は、いわば国家の直轄領である。そして同時に国境を守護する最前線でもあるから、当然関所が常置されることになっていた。
 関所があるのは、近隣では一箇所のみだ。ちょうどルゥが奉公する修道院からさらに丸一日ほど南下したところに、工事によって拡大された大規模な坑道の出入り口が置かれている。

「その関所からのな、定時連絡が途絶えたんだ」

 最後の一言で簡潔に事情をまとめたアルマに、ルゥは絶句する。
 ありえないと思いながらも、最悪の事態を連想したのだ。

「……襲われたってこと?」
「だから、それはまだわからないと言った」

 群盗のたぐいがわざわざ関所を襲う可能性は薄い。それよりさらにありえないことだが、仮に他国から侵略に類する行為を受けたのならば、連絡が途絶えて一日以上が経過した状態で何の音沙汰もないはずがない。
 とすれば、何かほかの問題が関所に起きたと考えるのが自然だ。

「まあ、それはそうですね」とルゥも納得する。
「かといって放置などは論外だから、それをこれから確かめに行くわけだ。どうせ通り道だから、その過程であの猟人の死体を届けようと思う。それで……」

 そこで珍しく口ごもって、アルマがルゥをうかがった。

「彼らには事情を説明することになるだろうし、聴取することもある。できれば、ルゥにも来てほしい」
「え。ぼくも一緒に?」
「そうだ」
「関所まで?」
「そうだ」文句あるか、とでもいいたげだった。
「いや、それは無理です」

 苦笑交じりに一蹴すると、アルマがルゥをにらみつけた。

「い、一瞬で断ったな、おまえ。いいじゃないか。父は登城ではるか国都だ。兄たちもめったに都市からは帰ってこない。誰にとがめだてされることもないぞ」
「そういう問題じゃないでしょ。軽々にここを動けば、立場が悪くなるのはぼくもあなたも同じです」
「ばれなきゃいい」
「ばれなければね」言外にありえない、という意図を込めてルゥは首を振った。「ともかく、ぼくはあの人の世話を厳命されています。それによって糊口をしのいでいるわけで、ちょっとそこまで行くくらいならともかく、往復で二日以上の時間を空けるのはちょっと」

 考えてみれば、ルゥは現在も『仕事』の途中であるのだ。水を汲みに来て予定外の事件に巻き込まれたせいで失念しかかっていたが、さすがにそろそろ戻らなければ問題が発生するだろう。
 
「けど、来てくれないと面倒なんだが、いろいろ」
「結局それか」
「どうしても、だめなのか? あまりだめだという場合無理にでも連れて行くことになったりするんだが、だめなのか?」
「いやいやいや、それはかんべんしてくださいよ、ほんと」
「わたしがこうまで頭を下げてるのに。冷たいやつだな。寒中水泳なんか強行するだけのことはある」
「頭なんか下げてないでしょうが、あんた」
「なんだと! 誰がおまえを拾ってきたと思ってるんだ!」
「いきなり怒鳴っても、だめなものはだめ。あと極短時間で色んな篭絡方法を試さないでください」
「えろいことしてあげるって言ったらどうだ?」

 会心の笑みを浮かべるアルマとは対照的に、ルゥは暗鬱たる気分をかみ締めた。

「……自分から絞首台に上がるような真似はちょっと」
「間があった。間があったぞ今! ぐらついたな!」
「呆れたんですよ」
「ぐっ……ま、まあ、おまえ不能だものな」
「名誉的にそれは断じて違うと強硬に主張させていただく」
「ほう。そうか。ならそれを証明するためにも、今回はわたしに同道するんだな」
「すげえ論理のすり替えをやりやがりましたね。雄弁術なら懲罰もんですよ」
「この石頭めぇ……」しかめつらのアルマは『この分からず屋』とでも言いたげだが、それはルゥの台詞である。
「ぼくがいなくなたって、どうにかならないってことはないでしょうに」

 顔をしかめて、ルゥは対応に迷った。己の希望に頑是無いところが、アルマにはある。直截的で、我意を通すことに熱意を傾ける。その特性を概ね好意的に見ることはできたが、ことがリュシアンの絡みになると話は別である。以前にも、アルマはどうにかしてリュシアンの世話からルゥを引き離そうとしたことがあったのだ。
 このまま漫談に付き合っていると、本当に連れ去られかねない。
 長い付き合いだ。剣呑な空気を感じ取って、ルゥはそそくさと場を離れようとした。すでに体は充分に温まっている。解決にはならないが、ともかく今は一度リュシアンの元に戻らなければならない。

「とりあえず、ぼくはちょっと院の方に戻りますから」
「待て」

 が、当然のように一緒に立ち上がるアルマに、まさかと言葉を失った。

「わたしも一緒に行く」

 表情を繕うことを忘れたルゥが、アルマの気分を害さなかった理由はひとつだ。

「令嬢……!」

 使いに出し、帰ってくるなり駆け寄ってきた従士が、明らかな異国の子供を伴っていたのである。


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[ 2006/07/17 05:44 ] 弧人の群 | TB(0) | CM(0)
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