インクナブラ

 主に創作小説を掲載します。

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ワハハ 

ご無沙汰しております。
なんか旧IDとパスワードが認証されなくてああん!?とかやってるうちに半年が。
半年といったら生まれた子供も乳児になる時間ですよ。
とりあえず一からIDとパスワード再発行して…として、どうにか復帰いたしました。
このまま放置だと思っただろう。
私もそう思いかけました。危なかった。

以下、超久しぶりに「まるいいし」続き。

 3

 市街地に近づくにつれバスへ乗車する客は増え、同様にして夕太への注目度は加速度的に上昇していった。まず夕太に席を譲られた老婆が、曲がった腰を軽く直立させながら目を見開いた。次に夕太より幾分年下と思しき三人組の少女たちが後部座席から携帯電話のカメラレンズを向けてかしましく口を寄せ合い始めた。最後に母親に手を引かれた小学生の少年が夕太を間近から指差して「オカマ?」と聞いた。夕太は菩薩のような曖昧な微笑を浮かべて答える。
「罰ゲームなんだ」
 少年は欧米人のように大仰に眉根を寄せて器用に肩をすくめると、「がんばってね」とだけ言って母親の元へ戻っていった。「やっぱオカマだった!」ととても通りのよい声を発した。日立はなおも平静を装い続ける夕太の胆力に心ひそかに感嘆したがなるべく近寄らないでほしいなと思った。思ったそばから夕太はつり革を掴みつつ日立に体を寄せてきた。
「なあ姉ちゃん」
「え、お姉ちゃんってなんですか?」
「いま思い出したんだけど、そういえばおれも姉ちゃんに頼みごとがあるんだけど。他人のふりしながらでいいから聞いてくれない?」
「……なにかしら。聞くだけなら聞いてあげるわ。あと他人とか悲しいこといわないで。わたし悲しくなるわ」
 なんだかんだといって物心ついた頃から弟と喧嘩をした記憶がほとんどない上に、ここ最近生活の世話を下着の選択まで面倒見られている日立は、弟愛が高まる周期にいたこともあってあっさりと折れた。それどころかこの見所のある弟が自分に対して頼みごとをするというシチュエーションに自尊心をくすぐられすらした。彼女は友達が少なく人見知りであり家庭内ではどちらかというと軽視されていたので、誰かに何かを依頼されるといった経験に乏しかったのだ。
「実はさ、姉ちゃんがこもってる間に始めたバイトの関係で知り合った子がいんのね。でさ、けっこう考え込んじゃう子なんだ。それで色々と悩みの相談を受けるようになったんだけど、ちょっとその子に姉ちゃんを見せたくてさ」
 日立は内心浮き立ちながらも表面で難しい顔を作る。こころもち下唇を突き出して難渋をアピールした。
「その子って女の子なの? 女の子が男の子に相談するっていったら大抵他の男が好きなパターンか、もしくはどうでもいいことで相談相手なり不特定多数なりの関心を惹きたいケースがほとんどよ。まあわたしで何か参考になることがあれば、フフン、諭してあげないこともないけどね」
「いや、姉ちゃんには別に悩み解決とかそんなのは期待してないし、できるとも思わないよ」
 日立は歯を見せて笑う。
「舐められたものね。聞きなさい夕太、人はね、誰かに何かを相談するとき、既にしてその答えを知っているものなのよ。そう、誰かに背中を押してほしいだけなの。わたしのような優れたカウンセラーはそのことをよく心得ているわ。結構本とかも読んだし。しかし地獄行くとかあなたの背後霊は十一年前に切れたミサンガですとか言っておけば、なんとなく懊悩は幻想に仮託されて気分はスッキリするものなのよ」
「はいはいにわかにわか」
 夕太は優しく微笑みウイッグを揺らした。
「でも、そういうどっかからコピーしてきてペーストしたような説教は、したけりゃどんどんしてくれて構わないよ。すればするほど効果が出るだろう」
 内心ムカムカと感情の温度を高めながらも、凄まじく集中する衆目を意識して、日立は髪をかきあげ余裕のジェスチャーをしてみせた。
「あんたはまだまだ幼いわね、夕太。青いわ。限りなく透明に近いブルーよ。もっとも人に届くレトリックとは、もっとも陳腐な言葉に他ならないわ。プロポーズに毎日みそ汁を作れとか言う男は死ぬべき。むしろインスタントみそ汁粉末状のまま永遠に直で食べながら暮らすべきだわ。ところで効果ってなあに?」
「姉ちゃんみたいな人間を見れば、ちょっとはその子も安心できるかなって思ってさ」
 『安心=頼りがいがある=優れている=すごい』という等式を即座に確立した日立は、わかりやすくやに下がった。
「あらあら、あーららぁ、こーらーらぁ……なによ、わたしを捕まえて癒し系だなんて、もう、流行遅れだわ。でも、そういえば小学校の頃『日立ちゃんって適当にクラシックの有名曲集めてヒーリングなんとかとかパッケージングしてそこらで売られてるCDみたいだね』って友達に言われたものよ。ようするに癒しの権化だったというわけかしら。ちょっと、どう、におってみてくれる夕太? マイナスイオンとかα波とかわたしの体から分泌されてないかしら」
「パナウェーブは観測できる」夕太が朗らかな感じで言った。
「そう……。帰りにアルミホイル買って行かなきゃねえ」
 そういう方向で話がまとまると、幹線道路を抜けたバスも徐々に市街地へ近づいていく。昼下がりの街は夜陰に乗じてここぞとばかりにデコ(発光)る気に満ちた電球で溢れていた。色とりどりの紙輪や一週間後には角松に取って代わられる運命のクリスマスツリーも気早にきらめいている。往来を行きかう多様な人々の顔は別段笑顔ばかりでもなく不景気だったり死にそうだったりなものもわりとあったが日立には関係ないことだった。みな幸せそうに見えた。とても鬱陶しかった。死んで欲しいとまでは行かなくともなるべく視界から消えて欲しいなあと日立は思った。
「いるわいるわ、聖夜という特別で神聖な一日をただ性的な意味で消費するばかりの凡愚たちが……」
 半眼をつくり吐瀉物に似たため息をこぼす日立だ。ほっぺをべったり窓にくっつけ吐息でガラスを曇らせ、結露した即席のキャンパスに流麗な筆跡でポエムをつづった。

 聖クラウス賛歌

  ああ 七転八倒
  わたしは旦夕祈りに明け暮れ
  くつしたを吊るです
  でつ
  が スヌーピーにみえる
  さておき サンタさん
  さん サンタさん
  さんさん サンタの
  きんたまは

「やめろ姉ちゃん」
 夕太が咄嗟にレフェリーストップをかけた。
 日立はどんよりとガラスよりはるかに曇った目を己が被造物へと向けた。
「なにこれ! 下品だわっ。とてもけしからんですっ」
 無意識ながら己の詩想に対して戦慄しつつ、コートの袖でそつなく字列を消去した。赤らむ目元を覆いつつ、そして彼女はおおいに嘆くのだった。
「き、きん、……とか、お、恐ろしいわ集合的無意識。このわたしになんてものを書かせるのかしら。はうう……ああ、はううとか言っちゃった。あざとすぎるわ、わたし。モテカワすぎる」
「今ちょっと真剣に姉ちゃんをやっぱ病院に連れて行くべきか悩んでる」
 弟の苦慮を、日立は咳払いで一蹴した。
「ああ、美容院と病院をかけてるのね。最高につまらないわ。死ね。それより、ちょっと夕太、恥ずかしいから次で降りましょう」
「え、いやでもまだ駅から遠い」
「ポチっとな」『次、止まります』
 乗降者無人の停留所を行き過ぎかけていた車体が、日立の一押しによって制動をかけた。集中する四囲の目線と舌打ちと運転手さんの苦言をものともせずに、長く重い黒髪を墨跡のようにして日立はステップを下りて行く。
 降車すると即座に寒風が体を洗った。日立は首をすくめ肩を抱いて「さむぅい」と嘆じた。長期間健常なコミュニケーションから遠ざかった人特有の独り言含有成分が多めなハイテンション、その渦中に彼女はあった。
 夕太が深々とバスの運転手に一礼し、身を縮める長身の姉をひとしきり眺めやると嘆息した。閉じるドアと走る去るバス。精神不全の姉と女装仕様の弟。街はクリスマスで、姉弟の躁気もあるいは一過性の賑わいにふさわしいのかもしれない。
 夕太が切なげに目を伏せていった。
「足がくっそ寒い」
「そりゃスカートはいてたらそうよ」日立はあきれた。
「女の子ってたいへんだな。ジャージ下にはいてくるべきだった」
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[ 2009/10/11 21:52 ] 小説 | TB(0) | CM(0)
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